2022年3月13日
早坂詩織さんへの取材記録
早坂さんは33歳の会社経営者。
中学生の頃、群馬県北部にある私立女子校に通っていた。
その学校はいわゆるお嬢様学校で、親の職業でクラスのカーストが自然と決まっていた。
早坂さんはサラリーマンの娘だったので、最底辺だった。
しかし、唯一仲良くしてくれたのミツコちゃん。彼女は『ヒクラハウス』のお嬢様だった。
仲良くなった二人は、ミツコちゃんの家で夏休みにお泊まり会をする計画をした。
ミツコちゃんの家は想像以上の豪邸だった。
玄関を入ると左右に階段があり、1階は来賓室、厨房、使用人室など。
家族は基本的に2階で暮らしていると使用人は言う。
しかし、ご両親は仕事の都合で遠い別宅に住んでいて、ここにはミツコちゃんとおばあ様だけで暮らしているという。
しかも、この豪邸は二人だけのために建てられたそうだ。
早坂さんは2階の自室にいるミツコちゃんのおばあ様に挨拶をした。
椅子に腰をかけて本を読んでいたおばあ様は
若々しく綺麗な人で、足が完全に隠れるほどの長いスカートを履き、花柄のカーディガン、両手には白い手袋をはめていた。
翌朝、ミツコちゃんの部屋からトイレに行こうとした早坂さんは偶然、廊下でおばあ様と出会した。
おばあ様は足が悪かったようで、右側の壁に手をついて階段の方へ向かって、倒れそうに歩いていた。
早坂さんは手助けしようとしたが、「気を使わなくていいから、お先に行ってらっしゃい」と、先にトイレに行く事を促されたので、トイレに入った。
しばらく経つと、ドアの外で「ゴトッ」と大きな音がした。
慌てて廊下に出たが、おばあ様はいなかった。部屋を見に行ったがいなかった。
すると、次第に1階で悲鳴や騒がしい声が聞こえてきた。
おばあ様はすぐに救急車で運ばれたが、搬送先の病院で亡くなったことを後日、ミツコちゃんから聞いた。
早坂さんは、おばあ様が階段から落ちた事に自分も責任があるようで後悔していたが、ミツコちゃんから責めることは言われなかった。
その後、ミツコちゃんとは何となく気まずくなり疎遠になった。
あれから何年も経つが、早坂さんにはおばあ様の転落死に疑念が残っていた。
この家は、おばあさんを事故に遭わせるために造られたような気がすると。
お年寄りが住む家なら廊下に手摺を付けるとか、部屋にトイレを作ってあげるとか、
そういう「優しさ」が全くない。
ネズミ捕りのように、罠を仕掛けておいて、ターゲットがかかるのを待つ。
直接殺すわけではないから、自分の手は汚れない。
罠を仕掛けたのは家を設計した「ヒクラハウス」の社長(義理の息子)?
しかし、意図的に罠を発動させた人がいるとしたら、それは、ミツコちゃんではないかと。
私はミツコちゃんのアリバイ工作に利用されたのではないかとさえ思えてくる。
なぜなら、共通の趣味であった漫画本がミツコちゃんの部屋には一冊もなく、
事故があった数ヶ月後に、「漫画なんて読むわけないじゃん。だって、貧乏な子が読むものでしょ?」と別の子とおしゃべりしているのを聞いてしまった。
どうして私だったんだろう、やっぱり貧乏だったから、使い捨ててもいいとおもわれたかもしれない。
早坂さんはミツコちゃんを見返したかったから、自分の力で地位を得たのだと言った。