1994年8月
某月刊誌掲載の記事
かつて、長野県西部焼岳のふもとに巨大な建築物があった。
その名は『再生の館』
カルト教団『再生のつどい』の宗教施設として使用されていたという。
教団はすでに解散し、施設も取り壊されてしまっているが、某月刊誌に記載された記事は唯一の潜入レポートである。
教団は生き神·御堂陽華璃(通称:聖母様)を教祖としていた。
『再生のつどい』の信者には共通する「ある事情」を抱えた人だけが集まっているという。
不可思議な超能力や暴力、違法薬物などを使っての洗脳は一切行わず、超高額商品を売りさばいていた。
発足から6年で数百人の信者がいたという。
月に4回ほどの集会に潜入レポートすることにした。
潜入する為には教団に入会する必要がある。
多くのカルト教団に比べガードがかなり緩く、必要事項を伝えたあと、「ある質問」に答え、教団への信仰を誓うだけであっさり入会できた。また、その際、「再生の館」での修行の予約もできた。
修行当日。
教団の敷地は自然に囲まれた広大な平地に、真っ白な建築物が建っていた。
信者は館から突き出た細長いトンネルから入り、
到着した先は集会場のようで、たくさんのパイプ椅子が並べられおり、信者は次々に座っていく。
向かって左には半円形のステージ、右側には円筒状の真っ赤なオブジェがあった。
しばらくすると、ステージ上にスーツを着た40代半ばくらいの男が現れて演説をはじめた。
建築会社「ヒクラハウス」社長、緋倉正彦氏である。
緋倉氏が教団に深く関わりがあり、資金を援助している噂は事前に聞いていた。
演説が終わると、次は教祖への参詣のために
オブジェのような建物の中に信者たちは入っていく。中に『聖母様』がいるらしい。
オブジェの内部は渦巻状の壁になっていて、小さな窓から奥を覗く仕組みであった。
段々、進んで行くと中央にいる聖母様がはっきり見えるようになってきた。
聖母様は身体障碍者だ。
左腕と右脚がない。
聖母様は白い絹の布を身に付け、異様な美しさを放っていた。
信者たちは目の前で話す聖母様をうっとりした目で見つめている。
しかし、最後尾にいた男の目が異様にギラギラしているのが気になった。
「聖母様!あなたは嘘をつかれたのですが?!私と息子を救ってくださるのではなかったのですか!」
「インチキ女め!どうして俺の息子は、ナルキは死んだんだー!お前の心臓をふさいでやる!」
と、男の怒鳴る声が聞こえてきた。
直ぐに教会員に取り押さえられ連れ出されてしまった。
その後、何事もなかったように信者たちは次の部屋に向かう。
再び細いトンネルから出て、館の外壁に沿って歩いて行くと入口があった。
中に入ると巨大な部屋にはいくつもベッドが並べられ、次々と信者たちが横たわって眠っているのだった。
まるで「眠ること」が修行のようだった。
しばらくして目を覚まし、パンとお茶が手渡されたので玄関ホール隅で食べていると、玄関の左側に長い廊下がある事に気づいた。しかし、その先は行き止まりになっていた。
玄関から外に出ると、その光景に思わず目を見はった。
長いテーブルが置かれ、信者と白い宗教服を着た男たちが向かい合って何か話をしているのだ。
テーブルに近づいてみると、その上にはいくつもの間取り図が並べられていた。
館の間取り図をそれぞれ並べてみると、完成したのは
人の形だ。
左腕と右脚がない、聖母様の体をかたどった建物だったのだ。