2022年8月
平内健司さんへの取材と、調査の記録
『変な家』を出版した翌年、一人の男性から相談を受けた。
長野県下條村に住む平内健司さん、30代の会社員。
彼は数ヶ月前、築26年中古の一軒家を購入した。
住み始めてからたまたまスマホで事故物件サイトを覗いていたところ、自宅が事故物件になっている事を知った。
画面には
場所:長野県下條村大字○○△△番地
日時:1938年8月23日
形態:家
詳細:女の遺体
『築26年』であるのに、日時は80年以上昔の事になっていて、ガセネタかもしれないと思ったが、やはり気味が悪いと平内さんは話す。
筆者はネットで調べるにも限界だったので、平内さんに同行することにし、長野へ向かった。
下條村の図書館には、ローカル新聞の複写が過去100年分保管されてた。
手分けして調べてみると、興味深い記事を見つけた。
1938年10月18日、梓馬家当主 梓馬清親氏死去
邸宅の自室で死亡、死因は縊死(首吊り)と見られる
女性の遺体発見から約2ヶ月後のことになる。
引き続き関連がありそうな郷土資料のコーナーを調べてみると、梓馬家に関する記述があった。
梓馬家はかつてこの地域の荘園領主だったが、荘園制度が廃止された後も名家として強い影響力を持ち続けたという。
引き続き梓馬家の詳細を調べる為、歴史資料館を訪れたところ、館長の友人(久三さん)が詳しい話をしてくれるとのこと。
久三さんのお祖母さんから聞かされていたことは、梓馬清親さんは女中のお絹さんと不倫関係になった。
それを知った妻は激怒、お絹さんを殺害しようとしたが、なんとか逃げ出した。
その後、お絹さんの消息は不明。
話を聞き終わった後、その日は遅くなったので、平内さんの自宅へ泊まることになった。
家に到着して中に入ると、奇妙なことに気づいた。
1階に窓が一つもない。
そして、北東の角部屋に入った瞬間、謎の圧迫感を感じた。
平内さんも入居してすぐに窮屈さを感じたので、測ってみたところ縦横の幅が80cmほど短かった。
一緒に食事をとった後、編集者の杉山さんから電話がかかってきた。
知り合いの作家から紹介してくれた本の中に関係がありそうな記述を見付けたと。
『明眸逗留日記』という紀行文集の中に「飯伊地方の思い出」著者の水無宇季が林の中で奇妙な水車小屋を見つけたという内容なので、写真で撮って送るので読んでみて欲しいとの事だった。
小屋の中ではメスのシラサギか死んでいたと書かれてあったが、何故、『メスのシラサギ』と解ったのか?
もしかしてこれはメタファー(暗喩)であって、女性の遺体だったのでは?
水車小屋の間取り図を眺めていると、妙にあの部屋に似ている気がしてきた。
もしや、この家は水車小屋を増築して造られたのではないか。
しかし、誰が何のために?
考えるほどに謎は深まっていく。