『女性の死に方』という本を読みました。法医解剖医の西尾元さんが書かれた本です。
この本には、様々なケースで亡くなった23人について書かれています。
高齢者の孤独死、中学生の突然死、分娩中の死、乳児の死など。
その中で特に印象深かったのが、
一人暮らしの90歳八嶋たえさん(仮名)
自宅の井戸へ身投げしての自殺。
井戸には60キロのコンクリートの蓋があった。明確な遺書はなく、警察は他殺である疑惑も浮かび、解剖へ回されることになった。
解剖していくうち手のひらに傷痕があった。重いコンクリートと格闘した痕跡だろうか?
直接の死因は、井戸の水を飲んだことによる溺死。
しかし、自殺なのか誰かに突き落とされたのか結局は判断がつかなかった。
警察の方では調査をすすめていくうちに、阪神淡路大震災で被災し、家が傾いたことに酷く落胆していたことがわかった。
以下、本より抜粋
「90歳にもなっていれば、そう遠くない未来に死を迎えただろう。今、自殺しなくてもよかったのに……とも思ってしまう。しかし、彼女にとって家族との思い出が詰まった自宅が傾いたことは、築いてきた人生が壊されるような悲しい出来事だったのではないか。だからこそ、愛する自宅にある井戸に飛び込み、人生に幕を引くという選択をしたように思えたのだ。 解剖室で向き合った90歳の八嶋さん。その安らかな表情を見て「おばあちゃんの死に方は悪くなかった」と、私は思った。」
90歳にもなって自殺するなんてと誰もが思う。
特に残された家族にとってはそんな死に方しなくてもと後悔の念が残ると思う。
西尾さんが本文中に、「女性の自殺は男性より明確な意思が見える」と書かれている。
八嶋さんの死に方に、たった一人でも
その死に方は悪くなかったと思ってくれる人がいる。
それだけで少しはうかばれるのではないかと思う。